「どうすれば人が自然に協力したくなるチームをつくれるか?」は、行動経済学で説明がつきます。
ただし、最初に一つだけ整理すると、
行動経済学は「人を操る技術」ではなく、「人が協力しやすい環境=選択アーキテクチャを設計する考え方」
として使うのが、看護管理では特に重要です。
例えば「委員会で発言してほしい」
普通は、
「みなさん、積極的に発言してください」
と言います。
でも、これではなかなか発言は増えません。
行動経済学では、
「なぜ発言しないのか?」
を考えます。
例えば、
- 他の人がどう思うか気になる
- 間違っていたら恥ずかしい
- 上司の意見に反対しにくい
- 発言するより黙っていた方が楽
- 「誰かが言うだろう」と思う
こうした人間の心理的な傾向を利用して、「協力しやすい環境」を設計するわけです。
① 現状維持バイアス
人は、今の状態を変えることを避けやすい。
だから、
「何か意見がある人は発言してください」
では、現状の「黙っている」が維持されます。
そこで、
「最初の3分間は、全員が一つだけ意見を書く」
というルールにする。
すると、
発言することを「特別な行動」から「最初にやる普通の行動」に変える。
これが選択アーキテクチャです。
② 同調効果・社会的規範
人は、
「周りの人がやっている」
と、自分もやりやすくなります。
例えば委員会で、
「○○さんはどう思いますか?」
と突然指名するより、
「まず全員が付箋に1つずつ意見を書きましょう」
とする。
全員が書き始めれば、
「意見を出すのがこの場の普通」
という規範ができます。
すると、発言のハードルが下がります。
③ 損失回避
人は「得をする」よりも「損をする」ことを強く避ける傾向があります。
これをチームづくりに応用すると、
「転倒を10%減らしましょう」
だけではなく、
「今のままだと、年間○件の転倒が起きる可能性があります」
と、現状を放置することによる損失を見える化する。
ただし看護では、恐怖を煽るような使い方は避けるべきです。
「失敗したら責められる」ではなく、
「患者さんにとって、今の状態を変えないことにはどんなリスクがあるのか」
という方向で使うのがよいでしょう。
④ デフォルト効果
これ、看護管理ではものすごく使えます。
人は、選択肢が与えられると、あらかじめ設定された選択(デフォルト)を選びやすい。
例えば、
「転倒リスクが高い患者さんについて、必要ならカンファレンスしてください」
だと、やらない可能性があります。
そこで、
「入院時に転倒リスクが○点以上なら、カンファレンス対象にする」
と仕組みにしてしまう。
「やる気のある人がやる」から、
「条件に該当したら自然に行われる」
に変わります。
これはチームビルディングの重要なポイントです。
⑤ フレーミング効果
同じことでも、伝え方によって受け取り方が変わります。
例えば、
「転倒を減らすために、これをやってください」
より、
「患者さんの『自分で動きたい』を守るために、私たちはこれをします」
の方が、看護師の価値観と結びつきやすい。
つまり、
「やらされる仕事」→「自分たちが大切にしたい仕事」
へ意味づけを変える。
これも、人が自然に協力したくなるための重要な要素です。
⑥ 内発的動機づけ
そして、ここが一番大事かもしれません。
人は、
「師長に言われたから」
だけでは長続きしません。
むしろ、
「自分たちで決めた」
「自分の意見が反映された」
「患者さんが良くなった」
「自分たちの工夫が役立った」
という感覚があると、主体性が生まれます。
そこで管理者が全部決めるのではなく、
「どうすればこの問題を解決できると思いますか?」
と問いかける。
そして出てきたアイデアを実際の活動に反映する。
これによって、
参加 → 自分の意見が反映される → 当事者意識 → 行動
という循環が生まれます。
これを「チームビルディング」とつなげると
非常に面白い構造になります。
従来型
管理者が指示する
↓
スタッフが従う
↓
活動する
↓
終了
ではなく、
行動経済学を活用したチームづくり
人間の行動特性を理解する
↓
協力しやすい環境を設計する
↓
小さな行動が起きる
↓
「みんながやっている」という規範ができる
↓
参加しやすくなる
↓
自分の意見が反映される
↓
主体性が生まれる
↓
チームとして協力する
となります。
そして、「ナッジ」と直結します
「選択アーキテクチャ」や「現状維持バイアス」は、まさにここで活用できます。
例えば、
「協力してください」
とお願いするのではなく、
「協力することが自然に起こる環境をつくる」
という発想です。
これは看護管理で非常に強力です。
例えば、
「報告してください」
↓
報告しやすいフォームにする
「カンファレンスに参加してください」
↓
参加することがデフォルトになる仕組みにする
「もっと発言してください」
↓
全員が最初に一つ意見を書く仕組みにする
「主体的に行動してください」
↓
スタッフ自身が小さな改善テーマを選べるようにする
という具合です。
私なら、看護管理ではこう定義します
チームビルディングとは、人に「協力してください」と求めることではなく、人間の行動特性を理解し、メンバーが「協力したくなる・協力しやすい」環境を意図的に設計することである。
そして、これをさらに発展させると、
行動経済学 × 心理的安全性 × チームビルディング × QC活動
という、かなり面白い看護管理のフレームワークが作れます。
次回へ続く。